ミュージカル「ダディ・ロング・レッグス」@シアタークリエ

ずっと楽しみにしてた2人きりのミュージカル。日本では『あしながおじさん』の名前でお馴染みの『ダディ・ロング・レッグス』。そのIDS会員の貸切回を見てきたので、ネタバレ含みつつ軽くメモ。8日のソワレだったけれど、例によって前後のあれこれは省略(9000)
シアタークリエ『ダディ・ロング・レッグズ ~足ながおじさんより~』

いつもの

会場のシアタークリエは初利用。並びに宝塚劇場があり、通り向かいには帝国ホテルがある都内有数の一等地は、アクセスが良くて付近に飲食店も多い絶好のロケーション。1Fの建物入り口から2フロア分下ると劇場への扉があり、1列に30席弱が20列ちょいの上品な中劇場といった佇まい。女性用トイレが回廊式になってて、客層に合わせた設計になってるのに少し感心した。この日のマチネは一般公演だったけれど、覗いた感じお客さんの95%は女性だったもの。
隣の宝塚に至ってはクリエを上回る女性率だったし、年齢層も若く服装も奇抜なのが混じっていたので、ここらの住み分けは他所事ながら面白い。ソワレの貸切公演は普段の真綾FCイベと大差なかったと思うけれど、やや女性客が多かったかもしれない。他にも北川さん、河野さん、千ヶ崎さんといった、最近の真綾ライブでお馴染みのサポートメンバーの人達も見に来てらした。
オケピは無くて、楽団の人たちは下手の舞台袖で演奏してた模様。バイオリン、ドラム、ピアノ、ギターの音色は確認できた。カーテンコールでラフな私服の人が6人くらい出てきたので、指揮者に加えて弦辺りが複数居たのかも。*1

舞台装置

舞台セットに関しては、写真つきレポートを出してるサイトが幾つかあるので、そこも参照してもらうと分かりやすいかも。セットの大転換とかも無くてシンプルなのでザックリ描写してしまおう。
まず、中央の奥が45度斜めになったジャーヴィスの書斎で、部屋の中央には立派なデスクがあり、ジャーヴィスはそこに座って手紙を読んでいる場面が多かった。書斎の奥側の2面の壁は大きい本棚になっていて、片方には高い所の本を取るためのハシゴが掛けてあり、もう片方には舞台裏へと抜けられる扉がついていた。本棚にはそれっぽい大判の蔵書が詰めこまれていたけど、背景の照明効果を出すために空白の部分も割とあった。あと、書斎部分は3段ほどの階段で、その他の部分より高くなっていた。
そして、書斎を扇形に取り囲むように広がるその他の部分が、真綾演じるジルーシャが主に動き回るスペースとなっている。両サイドの窓を除いてセットらしいセットはない代わり、大小様々なサイズの年代がかった木箱がセッティングされていた。箱は大きいものだと人間がスッポリ入るくらいで、演者があちらこちらにこれらの箱を押して移動させ、それぞれの箱が場面に応じて様々な役割を担っていたのが、今作の演出で最もユニークで面白い部分だったと思う。
2,3の例を挙げてみると、『スーツケース』や『鞄』として中から衣装や筆入れなどの小道具が出てくるオーソドックスなのに始まり、抱えきれないくらい大きな箱は『テーブル』になったり、枕とシーツを掛けて『ベッド』になったりした。個人的に一番傑作だったのは全ての箱が中央に山の様に積み重ねられ、そのまま一番高いところまで2人が上がって箱が文字通り『山』になった場面。2人が自力で動かせる程度の箱と照明演出のみで、様々な場面を舞台上に描き出す様は、演出家ジョン・ケアードの真骨頂を見た気がした。
あと、上に人が乗っかっても大丈夫なことから分かるように重量感ある箱が多い上に、動かすのは専らジルーシャ役の真綾だったので、まるでゲームの倉庫番みたいに一生懸命押してる姿がとても可愛らしかった。だれかC83でゲーム化を頼む。

本編

思いついた所から適当に書き連ねていくことにする。twitterでやれる内容なんだけれど、あっちだとネタバレなるからと理論武装

坂本真綾の演じるジルーシャ

実は「あしながおじさん」の小説は読んだことがなく、アニメ世界名作劇場等で話の筋を知ってるくらいだった。ようやく前日になって小説を買ったけれど、最初の50ページを読んだ辺りで時間切れ。でも、その50ページだけでジルーシャがとても魅力的なキャラクターだということはヒシヒシと伝わってきて、読みながらニヤニヤが止まらなかった。そして、坂本真綾の演じるジルーシャは、小説版で抱いた印象を欠片も裏切る事のない素晴らしい演技と歌唱だった。この1点だけでも、この作品を見て良かったと思えた。
演技に関しては『消しゴム』や『ジャンヌ』もあったので心配はしてなかったのだけれど、カツゼツは良くて台詞は聴き取りやすいし、声に品と知性があるし、時折18歳らしくちょっと小生意気で可愛いし、信者フィルターがどっちに作用したかはアレにしても不満点がほとんど無かった。ザマス口調のテンプレっぽいリベット院長の口真似も真綾がやってるのは新鮮だったし、ジルーシャの喜怒哀楽が声でハッキリ演じ分けられてるので、表情が見えにくい後ろの人でも場面の雰囲気が伝わり易かったはず。しかも、自分が聴いてる限りには1度も台詞間違えや噛むことも無かった!文字通りパーフェクト。
衣装はエプロンつけ外ししたり、帽子を被ったりと舞台上に居たままでも変化に富んでたし、20世紀初頭のアメリカに暮らす女子学生っぽさを満喫できた。18から22歳になるまでのジルーシャ役を演じてたわけだけれど、32歳の人妻っぽさは欠片も表に出てこなかった(褒めてる)。所帯じみてないって評してたどっかのレスが的を射てる。
そして、演技と同じかそれ以上に良かったのが歌唱。事前にホームページで公開されてた『幸せの秘密』や『卒業式』を聴いた時はそこまでピンと来なくて、ミュージカル寄りの歌い方で硬さが残ってるなーという感想だった。けれど、本番ではその硬さはスッカリ取れていて、声は綺麗に伸びるし、ビブラートには艶があるしで終始うっとりしてた。井上さんとのハモも綺麗だったし、歌詞をじっくり読みたいから、劇中の音をそのまんま利用する感じでCD化して欲しい。2枚組で綺麗に2幕とも収まるはず。

その他

パートナーの井上芳雄さんは、時としてジルーシャ以上に可愛いジャーヴィスお坊ちゃまだった。『ダディ・ロング・レッグス』が笑いの多いハートウォーミングな劇に仕上がってるのは、脚本の上手さと、井上さん演じるジャーヴィスのコミカルな表情だったり動きが大きく貢献してると思う。ニックネームのイメージが自分の中で先走ってたけれど、これぞミュージカル俳優という堂々とした歌い上げはカッコイイし、ハモの場面とかは真綾に声量を合わせてくれていたし、終演後はなるほど”プリンス”だと納得した。終演後の出待ち列に紛れてコッソリと握手してもらっちゃった。
ハッピーエンドであること以外の知識が無いままに観劇したのだけど、初見の作品にこの状態で臨むと、歌や台詞の日本語に常に意識を向けてないと、彼らが何を喋っているのかがあっという間に分からなくなる。「綺麗なメロディだなー」とか、「今の部分の歌声素晴らしい」とか、「チャリティーって難しいな」とか、単純な1文を頭に思い浮かべるのが精一杯。予習と復習を済ませてからもう1度くらい見たいものだ。
自分はすったもんだで1桁列後半のセンターから見ていたのだけれど、同行者に譲った1桁列前半の上手の席からも綺麗に舞台の全容が見えたと思う。特に真綾は上手に下手にと移動が多かったし、幕の開始時は左右前方にあるお客さんも使った入場口からの登場だったから、どこの座席がベストかは一概には言えないかな。でも、表情が視認できるに越した事はないので、ライブ以上に前列中央が望ましい感じはある。
楽曲はミュージカルの内容に合わせた爽やかなナンバーが多かった。パンフによれば1幕、2幕ともに15曲ずつで、ジルーシャが22曲、ジャーヴィスが20曲に参加してるみたい。気に入ったメロディも多かったので、既にサントラが発売してるらしいアメリカ版でもチェックしてみようかな。音とメロディの噛みあわせは、恐らく英語の方が気持ち良いはず。
レポを書き終わる前に原作も読み終わってしまったのだけれど、ジャーヴィスが正体を明かすシーンは、原作よりリアルな描写で面白かった。ジルーシャはダディに対してだけは隠すことなく心情を吐露してきたわけで、それを意中の人に全て知られていたってのは並々ならぬショックを受けていいと思う。だからこそ、ジャーヴィスが名乗り出るかどうかを延々と苦悩したわけだし。今回のミュージカルが素晴らしいものになったのは、ジャーヴィスを活き活きと描き出すことに成功した点にあるといって過言じゃないはず。
孤児院でずっと育ったジルーシャは、周囲の学生は当たり前のように知ってることを知らない。このギャップが序盤の大きなテーマなのだけれど、それに関するエピソードがポジティブな雰囲気で綴られる所がジルーシャの強さだったり、魅力なんだろなと思った。自分が普段友達とする何気ない会話が、共通の文化的土台にどの程度支えられているのかを想像してみるのは楽しいはず。
真綾FCでの貸切回ということで、カーテンコール後の挨拶を真綾が担当していた。いつもはジャーヴィス坊ちゃまの役割らしい。レミゼの最後のエポニーヌ後の挨拶でも思ったけれど、役の衣装に身を包んでるのだけれど役から離れている役者って蠱惑的だよね。ちょっと前までそこにはジルーシャが宿ってたはずなのに、今は坂本真綾として喋っている。でも、坂本真綾という役で喋ってると考えることも間違っては無いな、とかそんなことを思ったりするからか。
終演後にお客様からもチャリティを募っていて、舞台装置でもある木箱が募金箱へと変身していた。このミュージカルの趣旨とも合致するし、こんなに素敵なお芝居を見せて貰えたのだからと気前よくなる人も多いだろうし、とても気持ちの良い行為だったのだけれど、ジャーヴィスの台詞にあった、『決して越えることが出来ない感謝という壁を作り出す』みたいな台詞は考えさせるものだった。だからこそ匿名だったりするんだろうけれどね。

終わりに

適当に書きたいことは書いたので、こんな所で満足することにする。今回の公演期間中にもう1度行くかは未定だけれど、再演があったとしたら必ず行きたい作品になった。真綾が関わらないとなれば悩ましいけれども。観に行った人、読んじゃった人、お疲れ様でした。

*1:パンフ見たらチェロとベースを確認