坂本真綾 15周年記念LIVE「Gift」

去年の9月のFCライブで発表されてから、あっという間に半年が経ち、ふと気がつけばライブが終わってました。是非はさておき、この3ヶ月は自分の10年近いファン暦の中でも最も濃い3ヶ月だったと思います。
そうなった理由の8割くらいはtwitterにある気もするんですが、そろそろ日常に返らなければいけない気もするので、その取っ掛かりとしてライブレポートを書いてスッキリしたいと思います。真綾クラスタの人と会ったり色々と開演前も急がしかったのだけれど今回は割愛。今まで通りエモーショナルとはかけ離れたレポートになりそうだけれど、そういう性分だからしょうがないよね。お暇な方だけ続きをどうぞ。
会場の武道館は何だかんだで4回目。今回は初めての1階席での参加となったけれど、東スタンドの5列目から見る武道館のステージは、去年のタナソニに似ていたかな。例によってペイントでシコシコと拙い見取り図を作ったので掲載。

自分が見てたのは右の赤い三角の辺り。中央の青い六角形は縦横2mくらいあるスクリーンが6枚くっついたもので、開演と同時に天井の方に釣り上げられていきました。中央から東西に伸びてる赤い矢印はスロープの上り傾斜を表していて、北に向かってる階段は上りです。北、北西、北東の1階最前列のすぐ前を花道が延びてました。
最初はいつも通りセトリ順に書いていこうと思ったのだけど、色々と無理があったので、思いつくままに要素を挙げては、ソレについてダラダラと書いていくスタイルにします。どうせあれだけカメラが入ってれば映像化は確実だし、どの曲でどっちの方に歩いていったとかを必死に思い出しても大して価値がないし。とりあえずセトリはこんな。

01.Gift
02.Feel Myself
03.プラチナ

MC1
04.blind summer fish
05.へミソフィア
06.ユッカ
07.30minutes night flight

MC2
08.Remedy
09.紅茶
10.SONIC BOOM

ドラムソロ&パーカスソロ
11.奇跡の海

MC3
12.gravity
13.カザミドリ
14.ダニエル
15.メドレー【約束はいらない(piano)〜指輪〜Active Heart〜アルカロイド〜夜明けのオクターブ〜Tell me what the rain knows〜tune the rainbow〜チョコと勇気(チロルチョコCMの歌)〜トライアングラー〜約束はいらない〜Happy Birthday】(ゲスト:Pf 菅野よう子)
16.Get No Satisfaction!

MC4
17.マメシバ
18.Private Sky
19.光あれ

MC5
20.I.D.

EC
# Happy Birthday
MC6
01.風待ちジェット(ゲスト:dr 鈴木祥子)
02.マジックナンバー(ゲスト:dr 鈴木祥子)

MC7
03.everywhere
04.ポケットを空にして

【バンドメンバー】
演者はかぜよみツアーの東京公演メンバーに加えて、コーラスとしてKAZCOさんと浅井麻里さんが参加。2人とも声質が真綾に近くて、『Gift』を初めとして素晴らしい仕事をしてたと思う。素晴らしすぎて真綾がアウトロのフレーズとかで仕事しないのは困りものだけれども。
ギターの石成正人さんは、相変わらず専属のギターチェンジスタッフが付いて、多種多様なギターを使い分けてました。個人的な魅せ場は、『SONIC BOOM』のアウトロで衣装替えに真綾が舞台袖に下がった後のロングフレーズと、中央花道の先端で真綾とアコギ1本で作り上げた『ダニエル』かな。
ドラムの佐野さんは衣装変更中にまさかのドラムソロパートがあったり、ヘミソフィアみたいな、元が打ち込みの変態的な手数の曲も難なく叩いてたりと、主役を喰う勢いで活躍してました。流石は菅野バンドの心臓役でタナボタ1stからのお付き合い。ライブパンフのメンバー紹介欄でも、佐野さんだけメッセージを添えてくれてるんですよね。なんて素敵な人なんだ…
三沢さんも佐野さんに続いてソロパートがあり、ビートを主体にしてた佐野さんとは対照的にメロディアスな楽器を使っての、静かな、でも緊張感のある演奏でした。盛り上がりを考えるなら順番逆の方が良いとか考えたのが、俺の浅はかなところで、そこから流れるように奇跡の海に入った時は思わず鳥肌が。壮大な前奏だったという誰かの感想には首肯せざるを得ない。
PAと耳と座席配置の関係で、河野さんのキーボや、大神田さんのベース、沖ストリングスを意識して味わえなかったけれど、ここらは映像媒体になったときにカバーできるはず。『WE ARE KAZEYOMI!』のように、異様に音の分離が良いミキシングなら。
スペシャルゲストのお2人は上手くライブの流れの中に組み込んだなと割と感心。両方ピアノだとクドイだろうし、扱いを比較しちゃいたくなるけれど、それを華麗に回避したと思う。

【客】
ライト層の参加者が多いからかどうかは知らないけれど、お客さんは2月のプレミアムイベントと比べれば男性比率が高い印象。今回は数え上げたりしてないんで、細かいとこは分かりません。サイリウムを使ってる人は会場全体にチラホラと散見された程度。メドレーのトライアングラーで釣られてUO焚いてた人もいたけれど。
ライブ後に議論になるのはいつもの事だけれども、サイリウムと同じでどうせ結論も出やしないんだけれども、手拍子を挟む曲の率をもうちょい下げてもいいんじゃないかと思うんですが、読者の皆様におかれましてはどうでしょうか。例えば『blind summer fish』なら、サビのクラップはアレにしても、それ以外のスネアまで叩かなくてもいいんじゃね、とか僕は思ったりするんですよ。演者の誰かが煽ってたりする場面ではいいと思うけれど、『夜明けのオクターブ』の拍手とか誰得だよっていう。
まぁ、生産的な話には持っていけないんで、愚痴吐きに留めておきます。

【演出】
ファンの間で、統一してサイリウムを使おうという認識は存在してないので、演出する側としては照明効果は重要な項目なのだと思う。印象に残ってる照明を列挙してみる。

  • 『Gift』のサビで、シャボン玉の表面に現れるような構造色、若しくは虹色とも形容できる淡い色合いだけれども眩しい照明。
  • ヘミソフィアのサビで、激しいリズム隊に合わせて、赤と青を交互に高速で点滅させた照明。
  • 『30minutes〜』のイントロから深く暗い青で夜間飛行をイメージさせつつ、サビでステージの縁をオレンジで際立たせる、”地平線”を意識させてたっぽい演出。
  • 『SONIC BOOM』のイントロのチェロの優しい音色や、Aメロの呟くような歌い方にあわせての神秘的な淡い薄緑
  • 『カザミドリ』を歌いながらセンターステージへ歩いてゆく時のスポット照明と、その次の『ダニエル』。裏の準備も合わせて完璧な演出勝ち
  • 『Private Sky』のサビのバスドラ2連にあわせた、フラッシュみたいな白色の強い照明。
  • 『everywhere』の2コーラス目で、天井から垂直に降り注ぐ白い光の円柱と、その周りをグルグルと歩く真綾。

照明以外の演出でいうと、菅野さんがピアノを弾き始めた時の、手、腕、上半身と段々とカメラを引きながらモニターに映していくのが憎たらしいまでに成功していたね。素肌の肘まで映った段階で菅野さんだろなーと思ったけれども。後は、『光あれ』の時に、中央花道先端のリフトで持ち上げられてる中でのCメロの『光あれ 満ちあふれ』のフレーズは色んな意味で眩しかった。

【衣装】
今回も2月のプレミアムイベントに引き続き、@penguin_bouchanのイラストを引用させて貰いたいと思います。
Twitpic
着ていた順番に左から並んでます。どっからどの曲までかの情報と一緒に感想でも。

  • 赤と黒のは『Gift』から『SONIC BOOM』まで。ライブタイトルのGiftにちなんで、スカート周りにプレゼントボックスをあしらった衣装らしいです。色調だけで考えると、格ゲのキャラにこんなのいそうだよね。
  • 白のウェディングドレスみたいな衣装は奇跡の海から『メドレー』まで。すわ結婚報告かと思ったらそんなこと無かった。ステージでの『gravity』の後で、白いスポットライトを受けつつ花道をゆっくり進みながら『カザミドリ』を歌う真綾を見て、去年のタナソニを思い出したのは言うまでもない。あの時も『gravity』の次だったんだよね。
  • 3番目の腰周りレインボーはウェディングドレスの下に着込んでたはず。『get no〜』から本編ラストの『I.D.』まで。
  • 4番目の高貴な感じの青が素敵なツバメっぽい衣装はアンコールの頭からで、最後の『ポケットを空にして』だけ5番目のライブTシャツのスリーブを切り落とした衣装。お胸の無さが際立ってました。

改めて振り返ると、1本のライブで衣装5本はかなり頑張ってた部類じゃなかろうか。特別ゲストの鈴木祥子さんが遠目にはスーツっぽくみえたシックな衣装でドラムを叩いてたのと、ラストで菅野さんが白いもっさりした衣装でアコーディオン持って花道を歩き回ってたのも割と印象に残ってます。

【音】
何か漠然としたタイトルになってしまったけれども。セトリは同日発売のベスト盤からが軸と予想してたんで、菅野さんパート以外はそこまでサプライズは無く、逆に言えばあそこのアルカロイド』、『tell me 〜』、『夜明けのオクターブ』辺りは嬉しい想定外。
ライブでは初めて聴いた曲や、タナボタ3以来で記憶の彼方に行ってた曲も多くて、CDとどの程度歌い方が変わったかも楽しみにしてたけれど、意外に1st収録の『FEEL MYSELF』はそこまで気にならなかった。サビの高音部がエフェクトとか無いけれど普通に出るなーって程度。逆に『紅茶』『blind summer fish』ではサビの細かな節回しの違いを耳で楽しめたかも。恐らくメロディラインが複雑だからだろうけれど、高音部の喉の使い方がレミゼを経て変わったのかなーという勝手な想像。
楽曲のアレンジという面で一番好きだったのは『カザミドリ』。かぜよみツアーよりも更にアコースティック成分が高めのアレンジなのだけれど、弾き語りより歌唱に専念できるからか声がまっすぐ届いてきた。あのアレンジでもう1回CDのc/wに収録して欲しいくらい。
ピアノの弾き語りが『everywhere』の1コーラス目だけだった代わりかどうかは知らないが、『get no〜』のイントロギターを真綾が自前のテレキャスターで弾いたのは少しビックリ。タナボタ3のパンフは未来予知だったんだね。開場前に物販列で並んでる時、漏れてくるリハ音源に対してギャーギャー騒ぎながら必死に聴かない努力をしてたのに、このイントロのギターだけは聴き取れてしまっていたんです。やたら同じフレーズばかり繰り返してるのはPAテストも兼ねてるんだろうかとか思ってたけれど、真綾本人が弾いてたってオチかとライブが終わってから気づきましたとさ。

【MC】
坂本真綾のライブの一番の魅力は、若しかしたらMCなのかもしれない。仁王立ち+押忍の構えで『よろしくっ』と言ってみたり、ぐるりと360度囲まれたお客さんから飛んでくる諸々の声を、受け止めたり、受け流したり、切り捨てたり、誘ったりというトークも、勿論その一部ではあるのだろう。けれども、坂本真綾坂本真綾自身について語る時、その決して流暢ではない言葉の中に、大切な何かが潜んでるように感じられる。
少しだけ寄り道。去年のかぜよみツアーを象徴する曲を2つ挙げるとしたら『光あれ』『カザミドリ』だと僕は思う。前者はライブに対する想いや葛藤を喋ったロングMCの直後の1曲で、後者は歌詞がそのまんま今の自分を表してるとまで言った曲。モチロン異論ある人は居るだろうけれど、賛同してくれる人も少なくないと思う。ちなみに、1曲に絞れと言われても自分には無理。
では、今回の15周年記念LIVE「Gift」を象徴する2曲を挙げるとしたら?
『I.D.』『everywhere』が僕の回答である。この2曲が同日に発売された2枚組ベスト盤の、1枚目の最初の曲と、2枚目の最後の曲なのは決して偶然ではないはず。選ばれるべくして選ばれ、配置されたのだとライブを経た今なら自信を持って言える。そして1曲に絞れと言われたら、迷うことなく『I.D.』を選ぶ。それくらい『I.D.』前のMCは自分には重かった。
書けば書く程どつぼに嵌まる事は百も承知だけれど続けてみよう。

坂本真綾
坂本真綾は生粋のエンターテイナーでは決して無い。なぜなら、『坂本真綾』という役を演じることをしていないからだ。あの日の武道館でも、誕生日に集まってくれた大勢のファンに祝われつつも、浮世離れしたステージとパフォーマンスでお客さんを魅了する『坂本真綾』を演じることに終始徹したりはしなかった。それが表現者としての坂本真綾の在り方なのだけれど、そのことを端的に表していたのがライブ本編最後の曲に選ばれた『I.D.』前のMCだろう。

エスカフローネで菅野さんと出会って歌手としてもデビューし、1stアルバムのリリースまでした10代後半の坂本真綾が気づいたのは、自分でも完全に理解した覚えのない『坂本真綾』が、周りの大人やファンといった他人の間で一人歩きを始めてることへの違和感だったという。*1
坂本真綾という本名で音楽に携わっていくとはどういうことなのか、音楽やことばを伝えるのにどのような心構えで望むか、そういうアーティストとしての自我とも呼べる問題に対して、作詞を通してその当時なりに取り組んだのが『I.D.』だとMCでは語っていた。

だから堂々としていればいいのさ 心と同じ声になるように

この『I.D.』の歌詞の一部分が自分には答えに思えてならない。坂本真綾が考えてることや、思ってること、感じたことがそのまま『坂本真綾』を形作っていく。表現者としての根っこの部分は、この時から変わることなく2010年3月31日の武道館まで続いていると思う。歌手としての15周年記念ライブをやるにあたって、自分は何を考えて歌詞を書き、何を思って歌ってきたのかを聴衆に自分の言葉でキチンと説明する、それがとても大事なことだと思うのが坂本真綾であり、自分を含めた多くの人がそこに魅せられているのではないだろうか。


そして、このMCの凄い所は自分の中の『坂本真綾』語りに留まらずに、ファンの中にある『坂本真綾』にまで触れていったことにあると思う。10日以上前のコトバを正確に思い出せるほど記憶力が良くないから、ぼやけた表現になってしまうけれど、

みんなが私を見ているとき、坂本真綾を通してみんな自身を見ているのだと思う。私があまりに普通の、どこにでもいる人だから、どこかしら自分に重ねられるところがあるんじゃないのかな。そう思えるようになってから、みんなからの声も心強く感じるようになったし、『I.D.』を書いていた当時の自分に、怖いことじゃ無いんだよと伝えてあげたい。

みたいなことを喋っていたはずだ。ともすれば、この手の語りはアーティストとファンという構図に冷や水を浴びせるものになりかねない。だって、限られた時間のライブの重要な終盤のMCで、熱狂の対象であるはずのその人が、見る人と見られる人の関係性について喋るというのはメタ的な要素が強すぎるから。けれども、twitterを中心に色んな人の感想を流し読みした限りにおいては、あのMCが良かったという人は沢山居たけれど、あのMCで醒めたという人は自分で探した範囲では見つけられなかった。
真っ直ぐに自分を見つめ、表現者としてどうあるべきかを模索してきた自分の人生を、照れも衒いもなく大観衆の前でコトバに出来る勇気のある人が”普通”だとは僕にはとても思えないけれど、15年という歌手生活を経た、30の坂本真綾にしか喋れない内容なのは間違いないし、今回は省くけれど『everywhere』の歌詞とも密接に絡んでくると思う。

日ごろtwitterの方でしょーもない上にキモイ真綾語りをして遊んでた身からすれば、この一連のMCは、正直に言えば耳に痛かった。挙句に日常の大切さを説かれ、『ポケットを空にして』なんて歌われた日には、そりゃ帰宅してから腑抜けにもなるさ。

適当にお茶を濁そうかと迷ってたMCに関して一応書けて何となくスッキリしたんで締めに向かおうと思います。エンターテイメントとは少しずれた真綾のMCと、それでも多くのファンがそれを受け入れてる現状の素晴らしさを書こうと思っただけなのに、こんな長くなるとは思わなかった。最初に書き始めてから2週間近く経ってるのだから遅筆ってレベルじゃないですね。
菅野さんのピアノメドレーで『指輪』を花道先端でずっとアリーナの方を向いて歌っていた時と、アルカロイドで菅野さんと楽しそうに視線を交わしながら歌ってる時のギャップとか、他にも探せば書けそうなことは出てくるんだろうけれど、どっかで終わりにしなきゃいけないわけだし。
最後まで読んでくれた人、武道館参加してた人、お疲れ様でした。坂本真綾さん、30歳の誕生日おめでとうございます。

*1:この文章がまさにそれ。