映画「レ・ミゼラブル」@池袋HUMAXシネマズ

昨年中はドタバタしてて見れなかったけれど、やっと落ち着いたのでレイトショーで見てきた。気の向くままに幼稚な感想を書いてみる。(1200)

全体として

レミゼ暦は6年で、ミュージカルを生で見た回数は4回程度のライトなレミゼファンだけれど、今回の映画の満足度は数字で言えば90%くらい。予告から期待してたものはしっかりと見れた、というか聴けた。歌唱や合唱に関しては素晴らしかったと断言できる。舞台上とは違って声量に強弱を付けることが可能なので、曲に込められる感情の要素が強まっていたし、どの役者も興を削ぐようなピッチ外しとかしない安心感があった。ナマモノじゃないことの強さとも言えるかもしれない。
残りの10%の不満は、ミュージカル特有の心情描写してる曲での映像の弱さ。役者のバストアップが続く長回しシーンが多いので、顔芸と向き合う時間が長い。『bring him home』『empty chairs〜』辺りは、各シーンが継ぎ接ぎなのと、画面内の空気感がイマイチで少し退屈だった。それこそが魅せ場だという意見があるのも重々承知はしてる。
逆に言うと、動きのあるシーン、特に序盤からバリケード辺りまでは会心の出来だったと思う。ミュージカルだけじゃなくて原作の要素も取り入れながら、レ・ミゼラブルの世界観を鮮やかに描き出していた。『one day more』、『on my own』、『do you here〜』のミュージカルからの順番変更も、脚本もろとも上手くやったなーと思う。英語版の歌詞には慣れてるつもりだったけれど、歌詞の意味を完璧に理解してたわけでもないので、字幕を適度に追いかけながら鑑賞した。特に違和感は覚えなかったと思うし、『one day more』の重唱部分も上手く繋いだと思う。
あとは個別に適当に。

役者さんと役

映画を見る習慣が無いので、この映画に出てる一流なんだろう俳優さんも、名前は聞いたことがあるかも?程度だった。役柄別に感想。
バル:役者さんはもう少しガッチリとした体型で、後は場面ごとの年齢をメイク等で強調して欲しかった。決して悪くはないんだけれどね。テナ夫妻から引き取った瞬間からコゼ愛に満ち満ちてるバルだったのも独特かも。あの段階ではファンテの死に対する負い目と、そこから生まれる自らの責務という側面がまだイメージだったから。直後のジャベとの追いかけっこは、逃亡者としての緊迫感があって良かった。フォーシュルヴァンの存在とかミュージカルに慣れると忘れそうになる。
ジャベ:安定して見れた。ただ、バリケードでガブの亡骸に勲章をあげるのは、僕のジャベ像とはかけ離れてた。あれはその前のガブが撃たれるシーンを活かすためにも、髭の隊長さんの役目で良かったと思う。『Stars』でなんであんなに曲芸じみた行動してるのかと思ったら、『Suicide』との対比だった。ちょっと狙い過ぎじゃないかね。
ファンテ:女工の並びで図抜けて美人だった。だから疎まれたんだろうかと思っちゃうくらい。『lovely lady』からの『I dreamed a dream』はホント素晴らしい。今際の際におけるコゼットに関して、バルとの対比を今まで意識しなかったのが悔やまれるつーか、気付かなかった自分が情けない。個人的にはファンテが死ぬ時が涙腺が一番危うい。
エポ:25thのエポの安心感。コゼとのビジュアル対比が程よい感じだった。頑張ってサラシを巻いてたけれど、バルとの絡みが消えたので「坊や」呼ばわりはされなくなってたのと、ラストシーンでのバル、ファンテとの三声ハモが無かったのが少し残念。
マリウス:ちょっとナヨっとしてるけれど、歌はキッチリしてて、かなり理想的なマリウス。お爺ちゃんに反発して裕福な家を飛び出し、貧乏暮らしをしてる原作設定を、シーンをそこまで割くことなしに持ち込んでいた。
コゼット:こちらも不満なし。マリウスと末永く仲睦まじく乳繰り合っててください。
アンジョ:彼に限らないけれど、学生達は全体的にもーちょい逞しさが欲しかった。特にアンジョは溢れんばかりのカリスマ性が欲しい。でも、ここらは貫禄たっぷりのミュージカル俳優に意識を引っ張られすぎてるかも。作中じゃ20ちょいの若者のはずだし、青臭い位が丁度いいのだろうか。ABC冒頭はちょこちょこメロディが省略されてて、少しだけ気持ち悪かった。殉死のシーンは様式美。
テナ夫妻:夫婦揃ってとても若々しかったけれど、『master of the house』の時にエポやコゼの年齢の子供が居ることを考えれば、今回くらいの年齢の人たちのが合ってるのかも知れない。テナ夫がコゼットの名前を覚えてないという小ネタは10thコンの頃には無かったようだ。あんまりやり過ぎるのは変な感じ。
ガヴ:かなり出番が多く、舞台で減らされてたソロ曲も戻ってて美味しい役だった。バルに手紙を届ける時の、駄賃は要らないが等価交換だ、の台詞に逞しさとプライドが溢れてて良かった。
司教:エンディングクレジットでオリジナルキャストのバルジャン役であるコルム・ウィルキンソンの名前を見つけて、まじで?と思ったら司教様だった。とても示唆に富んだキャスティングだと思う。

個別シーン

1815 トゥーロン

冒頭の船を囚人達が引き上げるシーンはハリウッド的なインパクトがあった。予告とかで使いたくて作ったんだろなーみたいな。ミュージカルでは囚人の身分が際立つ地下牢獄だったけれど、あえて海にしたのは原作準拠なのかな? 何回かの脱獄に海や船の場面があった気が微かにする。ジャベが旗を持ってこさせたのには、どんな意味があったやら。
仮釈放されてからの曲を少しカットした代わりに「Sound of music」ばりに山岳地帯を歩き回ってたのは少し自分のイメージとは違った。ただ、仮釈放されたのが港町なので、次の舞台となる町までの移動を描く必要があったのかもしれない。その後、町で冷淡に扱われてから、司祭様に助けられるまでの場面は流れるようで綺麗だったし、差し伸べられた手に怯える、野良猫みたいなバルの演技も良かった。銀器は欲張って盗り過ぎてガシャガシャさせ過ぎだと思ったけれどw 『What have I done』とかの心情描写曲は、どんな絵なら自分が満足できたのか思い浮かばない。

1823 モントルイユ=シュル=メール

『at the end of the day』みたいに場面の動きがある曲は、映画化の恩恵をシッカリと受けたと思う。失業者の悲惨さを見せてから、トラブルで女工の立場を追われるファンテをきっちり描けてた。その後の、鎖や髪や歯を売り飛ばすシーンは、映像で鮮明に描写されると悲惨でならない。『lovely ladies』で売春のシーンを露骨に描写したのは映画的で現代的だなと思った。事後のベッドで歌う『I dreamed〜』は序盤のハイライト。ここもミュージカルと順番を変えてきてるけれど、違和感なく収まってた。
『who am I』のラスト、裁判所で服の胸元を引き千切るかと思ったら、アレはミュージカル用の演出らしい。市長殿は気が狂ったか?的な声が飛んでたのも原作準拠かな。この曲はミュージカルでも場面が急展開するので、初見の人はビックリするのだろうけれど、映画では逃亡資金の確保とかも含めて過不足無く描写されてたと思う。
ファンテの死に関してはリトコゼの幻影が分かりやすい映画ならではの演出かね。その後のバルジャベの対決のシーンでレイピアみたいな剣を使ってたのが面白かった。病院のイメージも現代のそれとはかけ離れていて、どちらかというと修道院みたいな作りだった。直線か曲線かという事かも。
『Master of the house』のシーンは細かい遊びが多かったので何度か見返したい。テナ夫妻の狡賢さをどれだけ挟みこめるか、の映像作りは面白かった。リトコゼを引き取ってからの部分は既に書いたので省略。ただ、金銭交渉のラストでバルの身元を怪しむフレーズが消えてた気がした。好きなポイントだったのでちょっと残念。

1832 パリ

乞食達の悲惨さは失業者のレベルではなかった。それこそ下水から出てきたような風体の乞食と、綺麗に着飾った憲兵との対比がカオスな感じ。あんなに乞食が多い中で寄付をして歩いてたら、強盗に身包みを剥がされそうなんだけれど、そこはジャベール達が治安維持を頑張ってたことの裏返しでもあるか。原作を読んだら一番愛おしくなったマリウスお爺ちゃんだけれど、映画ではマリウスに軽く説教する位しか台詞がない。でも、出番あっただけで満足。
貧乏で哀れな人に属するエポとガブだけれど、コゼットの居場所を突き止めるのに対して金銭が払われるのを拒絶したり、手紙を届ける駄賃ではないことに拘ったりと、プライドを持ってる描写がきっちり入ってた。『Do you here〜』がレミゼで一番好きな曲だから、『Red and Black』で場面が切り替わったのにはかなりビックリした。後から考えると大成功だったと思う。
プリュメ街でのマリコゼエポの三角関係の場面はシンプルに再現してた。テナ襲撃の場面をズラすことでシーン省略したりは些事。コゼからマリへの手紙をエポが運ぶという脚本の変更も、『on my own』への持っていき方としては効果的だった。『one day more』は異なる場所・立場にいるキャラの心情を、1つの音楽に重ね合わせるというものなので、ミュージカルから映画になることで違和感が減った。あと、各キャストの声量を適切に調整mixしてくれるのも嬉しい点。真綾エポとか埋もれるみたいな意見を良くみたもんだ…
今回の映画で一番素晴らしいと思ったシーンが、パリの広場を再現した一番広大なセットで学生が蜂起する場面。ラマルク将軍の葬儀列を見送る民衆が口ずさむ『Do you hear the people sing?』が、次第に大きなうねりとなって学生の蜂起へと繋がり、近隣から調達した家具を使ってバリケードを築くまでの一連のシーンには鳥肌が立った。空を乱れ飛ぶ家具があんなに美しい絵になるとは予想だにしてなかった。

という所まで書いてから、2ヶ月ほど放置してしまった。最後まで書ける気もしないので、エントリーの惨めな失敗例として晒しておくことにする。